プロボクサーやキックボクサーの言葉を集めた一冊。Numberのアンソロジーなどではなく、一人のライターの取材をもとにしたものなので、登場するボクサーには偏りがある(辰吉丈一郎が多い)。
ボクシングは階級制なので、厳しい減量が伴うイメージを持っているが、やはりストイックな競技であることがわかった。
晩年のモハメド・アリを見るまでもなく、自らの肉体に大きなリスクを負うこともあるし、試合に向けての調整、練習、減量は確実に命を縮める。
そんなボクサー同士が命をかけて臨むタイトル戦はもっとマスコミにとりあげられても良いんじゃないか?
そんなボクサーたちの言葉にハッとさせられるものがいくつかあったけど、ここでは三つ記しておきたい。
「日本チャンピオンを目標に練習してる奴は、普段から日本チャンピオンになるレベルの練習しかできない。でも、普段から世界チャンピオンを目指す練習をしてれば、試合のときに一発でも多くいいパンチが打てるかもしれない。試合には練習したことしか出ないって言うけど、それは当たり前のことで、言い換えれば、試合には普段の練習、普段の気持ち、普段の心構えで臨まなければならないんだよ」(高橋ナオト)
俺は一体どこを目標として日々の仕事や生活に取り組んでいる?
(ウィラポンに立ったままKOされた試合の後で)
なぜ、あそこまで立っていられたのか。誰もが抱いた疑問に話が及ぶと、辰吉はこう答えた。
「それは僕にもわからない。寝たらラクやのにね。でも、残り1%の希望があれば立っていられる。まだもっと闘いたい。チャンスがあるんじゃないか、と」
この試合の動画を見ると、途中でウィラポンが「まだレフリーは試合を止めないのか?」とでも言いたげな様子でチラッとレフリーを見る場面がある。それほど一方的な状況になったのに、最後まで立っていた辰吉という男は半端ねぇ。
極限状態において精神は肉体を凌駕する典型的な例として、この試合(高橋ナオトVSマーク堀越)は語られている。しかし、高橋は「意識がないんだから自分の意志ではなく、練習で体に覚えさせたオート機能だけで闘っていた」と言い、それを否定する。強靱な意志にも勝る、強靱な肉体。日々の練習でそれを培うのがボクサーなのだ、と。
一体、どれだけの練習をすれば体にオート機能が備わるのか・・・